NEDO、アジア太平洋向け風車産業戦略を本格始動
2026/6/5

浮体式時代を見据えた国産サプライチェーン構築へ
日本の洋上風力産業政策が新たな段階へ入りつつある。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は5月27日、「浮体搭載用風車を含むアジア太平洋地域に適した風車に係る産業技術動向調査」の公募を開始した。調査期間は2027年9月まで、予算規模は1億5,000万円未満。風車製造から運転保守(O&M)、認証・試験体制に至るまで、日本の風車サプライチェーン全体の競争力強化に向けた戦略立案を目的としている。
今回の調査は単なる市場分析にとどまらない。浮体式洋上風力の本格導入を見据え、日本がアジア太平洋市場においてどのような産業ポジションを確立すべきかを検討する政策的意味合いを持つ。
「導入拡大」から「産業育成」へ
第7次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーの主力電源化を掲げる中で、洋上風力をその中核技術として位置付けている。政府は2040年までに浮体式を含む30~45GW規模の案件形成を目標に掲げるが、その実現には発電設備の大量導入だけでなく、国内産業基盤の構築が不可欠となる。
2025年に改訂された「洋上風力産業ビジョン(第2次)」でも、風車の国内サプライチェーン形成が重点課題として明記された。
これまで日本の洋上風力政策は案件形成や事業者選定制度の整備に重点が置かれてきた。一方で、風車本体や主要コンポーネントの多くは海外メーカーへの依存度が高く、国内企業が獲得できる付加価値は限定的との指摘もあった。
今回の調査では、風車本体、ブレード、ナセル、電気系統、O&Mサービスなど各レイヤーごとにビジネスモデルを分析し、日本企業が参入可能な領域を整理する。さらに、体制面や資金面も含めた事業成立条件を検証し、国産化や国内立地促進に向けた具体的な方向性を探る。
浮体式時代に求められる「アジア太平洋仕様」
注目されるのは、調査対象が「アジア太平洋地域に適した風車」と明記されている点だ。
欧州の洋上風力市場は北海を中心に発展してきたが、日本を含むアジア太平洋地域では事情が大きく異なる。急深な海底地形、台風、地震、多様な港湾条件など、欧州仕様をそのまま適用することは難しい。
特に浮体式洋上風力では、風車と浮体構造物の統合設計が重要となる。浮体の動揺特性や過酷な気象条件への対応など、日本やアジア市場特有の課題が存在する。
今回の調査では、今後成長が見込まれるアジア太平洋市場を視野に入れながら、海外プレイヤーとの技術力、コスト競争力、安全保障上の観点も含めて分析を行う。国内企業育成のシナリオや政策効果も評価対象となり、日本独自の産業戦略策定に向けた基礎資料となる可能性が高い。
認証・試験インフラ整備が次の競争軸に
もう一つの焦点が、基準・認証・試験スキームの国内体制構築である。
洋上風力の国際市場では、風車認証や性能試験、ブレード試験などの技術検証インフラが競争力を左右する重要な要素となっている。欧州ではデンマークやドイツ、オランダなどが試験機関や認証機関を中心に産業集積を形成してきた。
一方、日本では大型風車や浮体式技術に対応した試験環境が限定的であり、海外機関への依存が課題となっている。
NEDOは今回の調査を通じて、国内外の試験機関や既存施設の役割を整理し、日本国内に技術検証環境を整備する必要性や市場性を分析する方針だ。想定されるビジネスモデルや運営主体、資金調達手法などについても検討が行われる。
洋上風力産業においては、発電設備そのものだけでなく、認証・試験サービスを含む周辺産業の育成が長期的な競争力につながる。今回の調査は、その制度設計の出発点となる可能性がある。
サプライチェーン再構築への試金石
世界の洋上風力市場では、中国勢の台頭に加え、欧米メーカーも大型化競争とコスト削減を加速させている。
日本市場では洋上風力案件の停滞や資材価格高騰など逆風も続いているが、政府は浮体式を次世代の成長分野と位置付ける。とりわけ広大な排他的経済水域(EEZ)を有する日本にとって、浮体式技術はエネルギー安全保障と産業政策を両立させる重要な選択肢となる。
今回のNEDO調査は、風車製造、O&M、認証・試験までを含む産業エコシステム全体を見直す取り組みであり、日本の洋上風力産業が「市場形成の段階」から「国際競争力を持つ産業育成の段階」へ移行できるかを占う試金石となりそうだ。
なお、本公募に関するオンライン説明会は6月5日に開催され、応募期限は6月26日正午までとなっている。
資料参考:NEDO、WindJournal



