蓄電池の建設コスト、初めてガス火力を下回る 中国の供給拡大で価格急落、再エネ普及を後押し
2026/6/18

蓄電池のコスト低下が世界の電力市場に大きな変化をもたらしている。米調査会社の分析によると、2025年の蓄電所の均等化発電原価(LCOE)が初めてガス火力発電を下回り、石炭火力とほぼ同水準まで低下した。中国メーカーによる大規模な増産と、電気自動車(EV)向け電池市場の成長鈍化を背景に、蓄電池価格が大幅に下落したことが主な要因だ。
一方で、AIデータセンター向けの電力需要拡大に伴うガスタービン需給の逼迫や、中東情勢の緊迫化による燃料価格上昇を受け、ガス火力発電のコストは上昇傾向にある。蓄電池とガス火力のコスト差は今後さらに拡大する可能性があり、再生可能エネルギーの導入拡大を後押しする材料として注目されている。
蓄電池LCOEは78ドル、5年間で半分以下に
米国の調査会社ブルームバーグNEF(BNEF)が公表した2025年の電源別LCOEによると、蓄電所のコストは前年比27%低下し、1MWh当たり78ドルとなった。これはガス火力発電の102ドルを初めて下回る水準であり、石炭火力発電の77ドルとほぼ同等となる。
蓄電池のLCOEは2020年時点では185ドルだったが、わずか5年で半分以下に低下した。背景には蓄電池セル価格の急落がある。2025年の平均価格は1kWh当たり70ドルとなり、前年から45%下落した。
特に中国では、政府が系統用蓄電池の導入拡大を強力に推進しており、補助金政策を背景に設置容量が急速に増加している。こうした需要拡大を見越したメーカー各社の設備投資が生産能力の急拡大を招き、結果として世界市場での価格競争が激化した。
中国勢が世界市場を席巻
韓国の市場調査会社SNEリサーチによると、中国メーカーは2025年時点で世界の蓄電池市場の64%を占めている。2020年までは50%未満だったシェアが、この5年間で大きく拡大した。
世界最大の電池メーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)を中心に、中国企業はEV向け電池市場でも高い競争力を持つ。しかし近年は世界的なEV販売の伸び鈍化により、過剰となった生産能力の一部が電力貯蔵向けへとシフトしている。
市場関係者によれば、中国のEV向け電池生産能力は実需を大きく上回る水準に達しており、メーカー各社はデータセンター向けや系統用蓄電池市場を新たな成長分野として位置付けている。
米国でもEV市場の成長鈍化を受け、自動車向け電池工場を蓄電池向けへ転換する動きが広がっている。北米では複数の電池工場がエネルギー貯蔵システム(ESS)向け生産への切り替えを検討しているとされる。
ガス火力は設備・燃料コストが上昇
対照的に、ガス火力発電のコストは上昇している。BNEFによると、2025年のガス火力LCOEは前年比16%増となった。
最大の要因は、AI向けデータセンター建設ラッシュによる電力需要の増加だ。世界的にガスタービン需要が急拡大し、主要メーカーへの発注が集中している。設備納期の長期化や建設コストの上昇が新設案件の採算性に影響を及ぼしている。
さらに、中東情勢の不安定化によって原油・LNG価格にも上昇圧力がかかっている。LNG長期契約の多くは原油価格と連動しているため、燃料費の上昇は発電コストを押し上げる要因となる。
洋上風力は依然高コスト、蓄電池が普及の鍵に
再生可能エネルギーでは、太陽光発電のLCOEが39ドル、陸上風力発電が40ドルと引き続き低コスト電源としての優位性を維持した。一方、洋上風力発電は100ドルとなり、金利上昇や資材価格高騰の影響から前年比12%上昇した。
洋上風力は依然として陸上風力や太陽光発電の約2倍のコスト水準にあるものの、大規模な脱炭素電源として各国で導入が進められている。
そのなかで、出力変動の大きい再生可能エネルギーを支える蓄電池の重要性はますます高まっている。蓄電池コストの低下が続けば、再エネと蓄電池を組み合わせた電力システムの経済性は一段と向上し、脱炭素化の加速につながる可能性がある。
「再エネ+蓄電池」が新たな基準へ
今回のコスト逆転は、単なる蓄電池価格の下落にとどまらない意味を持つ。これまで系統安定化の役割を担ってきたガス火力に対し、蓄電池が経済性の面でも競争力を持ち始めたことを示している。
特に日本では、太陽光や風力の導入拡大に伴い、出力抑制や系統混雑が課題となっている。今後、蓄電池価格がさらに低下すれば、再エネ発電設備と蓄電池を一体的に導入するモデルが主流になる可能性が高い。
一方で、蓄電池サプライチェーンの中国依存度が急速に高まっている点には注意が必要だ。エネルギー安全保障の観点から、日本や欧米各国は国内生産や調達先多様化をどのように進めるかが今後の重要な政策課題となりそうだ。
参考資料:NIKKEI



