秋田に2兆円規模AIデータセンター構想 UAEも関心、洋上風力が電力供給のカギに
2026/8/25
AIデータセンターと洋上風力発電を組み合わせた電力供給のイメージ
秋田県で国内最大級となる人工知能(AI)向けデータセンターの整備構想が動き始めた。最大500MWの受電容量を想定する大型プロジェクトで、総事業費は約2兆円規模に上る見通し。アラブ首長国連邦(UAE)の政府系ファンドによる大型投資も視野に入る。大量の電力を消費するAIデータセンターを支える電源として期待されているのが、秋田県沖で開発が進む洋上風力発電だ。
UAEのシハブ・アルファヒーム駐日大使は8月19日に秋田県を訪問し、鈴木健太知事や沼谷純秋田市長と会談した。AIデータセンター構想などについて意見を交わしたほか、県内で進む洋上風力発電の建設現場も視察した。
秋田県にとって今回の構想は、再生可能エネルギーを県外へ供給するだけでなく、豊富な再エネを県内のデジタル産業や新産業の創出につなげる転換点となる可能性がある。
最大500MW、総事業費2兆円規模
計画を進めているのは、米国のAIスタートアップBITGRIT(ビットグリット)や秋田市のIT企業エスツーなど。秋田市内に大規模なAIデータセンターを整備し、総受電容量は最大500MW、整備費は約2兆円規模を想定する。
資金面ではUAE側が政府系ファンドを通じて数千億円から1兆円規模を投資する可能性があるほか、別の海外投資ファンドも数千億円規模の投資を検討しているとされる。国内からも通信やエネルギー関連企業などの参画が見込まれている。
AIデータセンターは大量のGPU(画像処理半導体)などを24時間稼働させ、冷却設備にも大量の電力を必要とする。生成AIの普及に伴い世界各地でデータセンター向け電力需要が急増しており、施設の立地競争では安定した電力供給力が重要な条件となっている。
その点で秋田県が持つ強みが、国内有数の再生可能エネルギー開発ポテンシャルだ。
秋田の再エネ、2035年度に約4.48GWへ
秋田県は風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーの導入量を2035年度末までに約448万kW(4.48GW)へ引き上げる方針を掲げる。2025年度末比では約2.5倍に相当する規模だ。
中でも成長が期待されるのが洋上風力発電である。
秋田県内には再エネ海域利用法に基づく洋上風力の「促進区域」が全国最多となる4区域あり、さらに促進区域への移行を目指す「有望な区域」もある。これらの開発が進めば、洋上風力だけで合計2GWを超える電源規模となる可能性がある。
BITGRITなどが計画するAIデータセンターも、こうした洋上風力を含む再エネからの電力調達を想定している。
従来、秋田県の洋上風力は首都圏などへの再エネ電力供給や地域産業育成の観点から期待されてきた。AIデータセンターが実現すれば、大規模な電力需要そのものを発電地域に呼び込む「地産地消型」の産業モデルへ発展する可能性が出てくる。
洋上風力2案件は2028~29年稼働へ
一方、AIデータセンター構想の実現には、洋上風力の開発を計画通り進められるかが大きな課題となる。
秋田県内の4つの促進区域のうち、2案件では三菱商事と中部電力系を中心とする事業者連合が2021年の第1回公募で事業者に選定されたものの、資材価格や建設費の上昇などを背景に2025年に事業から撤退した。
現在、残る案件ではJERAを中心とする企業連合とENEOS系の企業連合が、それぞれ2028~29年の運転開始に向けて事業を進めている。
JERAグループや東北電力、伊藤忠商事などが参画する事業では、2026年夏から本格的な建設準備が進む。8月末ごろから洋上風車の基礎や関連設備などを順次受け入れる予定で、秋田港を中心とした施工体制の整備も進める。
アルファヒーム駐日UAE大使も19日、秋田市内のJERA連合の工事現場を視察し、大型クレーンなど洋上風力建設に使用する設備について説明を受けた。
AIデータセンターが洋上風力の「需要家」に
注目されるのは、AIデータセンターそのものが秋田県の洋上風力にとって新たな大口需要家となる可能性だ。
三菱商事連合が撤退した2区域については、今後の再公募時期や条件が焦点となっている。AIデータセンターの整備が具体化すれば、長期的かつ大規模な電力需要が秋田県内に生まれ、再公募案件の事業性を支える材料となる可能性がある。
洋上風力事業では近年、資材費や金利、建設費の上昇によって事業採算が悪化し、国内外で計画の見直しが相次いでいる。発電した電力を長期的に購入する大口需要家の確保は、プロジェクトファイナンスや事業収益の安定性という観点でも重要性が増している。
AIデータセンターと洋上風力を組み合わせる構想は、こうした洋上風力側の課題と、AI産業側の電源確保という2つの課題を同時に解決する可能性を持つ。
デンマーク・エスビアウ港とも連携
秋田県は洋上風力産業の集積に向け、海外との連携にも乗り出している。
県は7月、デンマーク西部のエスビアウ港(Port of Esbjerg)の管理会社と洋上風力分野などで協力する方針を発表した。秋田市や産官学コンソーシアム「秋田風作戦」を含む4者で10月に覚書を締結する予定で、洋上風力の拠点港として秋田港の機能強化につなげる。
エスビアウ港は北海の洋上風力産業を支えてきた欧州有数の拠点港で、風車メーカー大手のベスタスも進出している。秋田県は港湾機能だけでなく、将来的な風車関連産業やサプライチェーンの誘致も視野に入れる。
「発電する地域」から「電力を産業に変える地域」へ
日本では生成AIの普及を背景に、大型データセンターの建設計画が相次いでいる。ソフトバンクは北海道苫小牧市で300MW級、NTTデータグループも千葉県で200MW級のデータセンター整備を進める。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)の見通しでは、データセンターの新増設に伴う国内の電力需要は2035年度までに約661万kW増える可能性がある。AI投資の拡大とともに、データセンターをどこに建設し、どの電源で支えるのかが日本の電力政策や産業立地政策の新たな課題になりつつある。
秋田の構想が特徴的なのは、国内有数の洋上風力開発地域と500MW級のAIデータセンターを結び付けようとしている点だ。
洋上風力の開発、送電網の増強、蓄電池による需給調整、港湾インフラ、そして大口需要家となるAIデータセンター。これらを一体的に整備できれば、秋田は再エネを「つくって送り出す地域」から、再エネを地域内で消費し、AIやデジタル産業という高付加価値産業へ転換する地域へと変わる可能性がある。
UAEからの大型投資が実現するかに加え、洋上風力の建設と再公募、電力系統の増強をどこまで同時に進められるか。国内最大級のAIデータセンター構想は、秋田県のエネルギー戦略と産業政策の双方を占う大型プロジェクトとなりそうだ。
参考資料:NIKKEI






