量子ドット太陽電池、実用化へ前進 低コスト印刷技術で次世代市場に挑む

2026/7/3

量子ドット太陽電池、実用化へ前進 低コスト印刷技術で次世代市場に挑む

試作した量子ドット太陽電池は、薄く柔軟性に優れ、曲面への設置やフレキシブルデバイスへの応用が期待される。


2023年のノーベル化学賞の研究テーマとして注目を集めた「量子ドット」を活用した太陽電池の実用化が、一歩前進した。電気通信大学の研究グループは、大面積でも均一な膜形成を可能にするインク製造技術を開発し、量子ドット太陽電池の低コスト化と量産性向上につながる成果を発表した。研究成果は英科学誌『Nature Energy』に掲載された。


量子ドット太陽電池は、数ナノメートルサイズの半導体粒子(量子ドット)が光を吸収して発電する次世代太陽電池の一種である。粒子の大きさを調整することで吸収する光の波長を制御できるため、太陽光を効率よく利用できることが特徴だ。理論上のエネルギー変換効率は40%を超えるとされ、シリコン太陽電池やペロブスカイト太陽電池の単独セルを上回る潜在性能を持つ。


一方で、実用化に向けては、量子ドットを均一に分散させたインクの安定性や、大面積への塗布技術が課題となっていた。


今回、研究グループは量子ドット表面に負電荷を持たせることで粒子同士の凝集を抑制し、インクの安定性を大幅に向上させた。従来は約30分程度だった安定した使用可能時間を30日以上へ延長したほか、塗布と乾燥を何度も繰り返す工程も不要となった。


材料コストも大きく改善した。インクの製造コストは1グラム当たり約800円と従来比約20分の1まで低減し、発電出力換算では1ワット当たり9円未満と、現在主流のシリコン太陽電池と同等以下の水準を実現できるとしている。


性能面でも一定の成果を示した。試作セルでは約13平方センチメートルと従来の約300倍の塗布面積でも変換効率10%以上を維持し、1200時間以上の連続動作後も初期性能の90%以上を保持した。


ペロブスカイトとの差別化も


量子ドット太陽電池は、軽量で柔軟性を持つフィルム型太陽電池として、現在実用化が進むペロブスカイト太陽電池と比較されることが多い。


両者は印刷プロセスを採用する点では共通するが、製造原理には違いがある。ペロブスカイト太陽電池は塗布後に結晶を成長させる工程が必要となるため、温度や湿度を厳密に管理した製造環境が求められる。一方、量子ドットはインクの段階で既に結晶構造を形成しており、塗布するだけで発電層を形成できることから、製造工程の自由度が高いとされる。


この特性を生かし、発電する窓ガラスや建材一体型太陽電池(BIPV)、さらには衣類などのウェアラブル用途への応用も期待されている。


また、量子ドットは粒径を制御することで近赤外線領域まで吸収できるため、シリコンやペロブスカイトと組み合わせたタンデム型太陽電池への適用も有望視される。異なる波長の光を効率よく利用できることで、さらなる高効率化につながる可能性がある。


商用化へ残る課題


研究グループは今後5年程度で実用化に必要な技術を確立し、約10年後の商用化を目指す。現在約10%の変換効率を20%程度まで高めることを目標としている。


一方、市場競争は激しさを増している。中国では次世代太陽電池分野への研究開発投資が拡大しており、論文数や技術開発で世界をリードする存在となっている。量子ドット太陽電池でも研究開発が先行しているほか、量産設備やサプライチェーンの整備も進む。


ペロブスカイト太陽電池が量産化フェーズへ移行する中、量子ドット太陽電池は依然として研究開発段階にある。しかし、今回の成果は、これまで課題だった量産性やコスト面の改善に道筋を示したものといえる。


今後は変換効率のさらなる向上に加え、長期耐久性や大面積製造技術の確立が普及の鍵となる。次世代太陽電池市場では、ペロブスカイトだけでなく量子ドットも有力な技術候補として存在感を高める可能性がある。

 


 参考資料:NIKKEI, 電気通信大学, Nature Energy


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