BP、山形県沖洋上風力から撤退協議 制度改革の行方が日本市場の試金石に
2026/7/7

英国石油大手BPは、山形県遊佐町沖で進む洋上風力発電事業から撤退する方向で、共同事業者との協議を進めていることが分かった。丸紅を中心に関西電力、東京ガス、地元建設会社・丸高などが参画する事業コンソーシアムから離脱する見通しだ。一方、事業そのものは残る日本勢が出資比率を見直すなどして継続する方針である。
遊佐町沖の案件は、2024年12月に政府の第3回洋上風力公募で丸紅連合が選定され、2030年6月の運転開始を目指している。BPは開発主体となる特別目的会社(SPC)に約25%を出資しているとみられ、丸紅に次ぐ主要株主の一社だった。
BPは2025年8月、日本火力発電最大手JERAと洋上風力事業を統合し、折半出資会社「JERA Nex bp」を設立した。しかし、山形県沖案件は統合以前にBP本社主導で落札した経緯があり、統合会社への移管が難航していた。こうした事情から、BPは単独での事業継続は困難と判断したとみられる。
BP本社は現時点で「決定した事実はない」とコメントしているが、関係者によると、保有する出資分は丸紅など既存構成企業が引き受ける方向で調整が進んでおり、プロジェクト自体への影響は限定的となる見込みだ。
外資撤退が相次ぐ日本市場
今回のBPの動きは、日本の洋上風力市場を取り巻く厳しい事業環境を改めて浮き彫りにした。
2025年には三菱商事と中部電力のコンソーシアムが、千葉県沖および秋田県沖の計3海域から撤退を決定した。世界的なインフレや資材価格、人件費、金利の上昇によって採算性が大きく悪化したことが背景にある。
さらに2026年6月には、ノルウェーのエネルギー大手エクイノール(Equinor)も日本市場からの撤退を表明した。国内で具体的な開発案件は保有していなかったものの、今後の入札案件でも十分な収益性を確保できないと判断した可能性がある。
政府がこれまで実施した9海域の大規模公募案件のうち、すでに3海域は三菱商事連合の撤退によって再公募となることが決まっている。残る6海域の採択案件で、事業者による撤退方針が表面化するのはBPが初めてとなる。
現在も秋田県沖ではENEOS系事業にスペインのイベルドローラ(Iberdrola)、新潟県沖では三井物産主導案件にドイツのRWEが参画している。今後、海外投資家の慎重姿勢が強まれば、日本企業がより大きな資金負担を担う可能性もあり、事業継続性への影響が懸念される。
欧州では支援策を拡充、日本は制度改革が焦点
洋上風力を巡る採算悪化は日本だけの課題ではない。欧米でも近年、入札不調や開発中止が相次ぎ、各国政府は制度の見直しを進めている。
英国は洋上風力向け入札予算を大幅に増額し、ポーランドは入札上限価格を引き上げるなど、収益性を確保しやすい制度へ転換している。民間投資だけに依存する従来型の支援策から、政府がリスクを分担する仕組みへと政策の重心が移りつつある。
世界市場では回復の兆しも見え始めている。洋上風力の累積設備容量は2034年までに約396GWへ拡大し、その約45%を欧州が占める見通しだ。最終投資決定(FID)の案件規模も、2025年の約12GWから2026年には22GW程度へ回復すると予測されている。
一方、日本政府は2040年度の電源構成に占める風力発電比率を2023年度の1.1%から4〜8%へ引き上げる目標を掲げている。しかし、足元では商業運転に至った案件が限られ、制度面の整備が市場拡大の鍵を握る。
現在議論されている制度改正では、三菱商事が撤退した3海域の再公募ルールの見直しに加え、既存案件への救済措置も検討されている。その柱となるのが「長期脱炭素電源オークション」の活用で、建設費を手厚く支援する一方、運転開始後の収益の大部分を還元する仕組みが想定されている。
制度改革が十分な採算改善につながるかは依然不透明だが、その内容と実施スピードは、日本市場への投資判断を左右する重要な要素となる。BPの撤退協議は一企業の経営判断にとどまらず、日本の洋上風力市場が今後も海外資本を呼び込めるかどうかを占う象徴的な事例となりそうだ。
BPの撤退は、日本市場そのものからの全面撤退ではなく、事業スキームの再編や採算性を踏まえたポートフォリオ見直しの側面が強い。一方で、海外大手が日本案件への投資判断を慎重化していることは事実であり、今後の再公募や制度改革が十分な収益性を示せなければ、海外資本の呼び込みは一段と難しくなる可能性がある。日本が2040年度の導入目標を実現するには、欧州各国と同様に、開発リスクを官民で適切に分担できる制度設計が急務となりそうだ。



